ライフスタイル・シナリオ ~『農』ある暮らし~


Aさん夫婦の場合:夫61歳 妻58歳

大企業の管理職を務めていたAさんは、もともと園芸が趣味で5年前から都心部に近い市民農園を借りて夫婦で野菜作りもしていた。

退職後には空気の綺麗なところで田舎暮らしをしたい、出来たら伝統的な古民家に住みたいと思ってインターネットで物件を探していたところちょうど古民家付きの農地の売り物件に出くわし早速現地を見に行き気に入った。

しかしながら、農地まで手に入れてもこの歳で今さら農業は出来ないと困っていたところ町に農地の預かり制度があると聞いて問い合わせすると、貸し農地として預かってくれる、場合によっては売り農地としても良いと聞いて購入することに決めた。

自分達が住むために300坪の宅地を残し、残った農地7反は町の制度を利用して売ってもらうことにした。1年たった今は、庭で少しの家庭菜園と園芸を楽しみながら年金生活を送っている。都心部で生活していた頃に比べエンゲル係数も低く年に一度くらいは夫婦で海外旅行も出来そうだ。


最近では、娘夫婦が孫を連れて遊びに来てくれるようにもなり将来は別荘代わりに離れを建てたいと娘達の方から話が出てきている。孫達の情操教育にも良い様だ。

地域に足りないもの 医療(救急)体制・一人になってからどうするのか?
インターネット環境(情報収集・更新)
問   題   点 農地は要らない、古民家だけ欲しいという人が多い。
既存のコミュニティーには入り込もうとしない




Bさん夫婦の場合:夫58歳 妻55歳

中堅企業につとめていたBさんは50歳になる前、将来の年金だけでは老後の生活が不安と思い定年後は帰農しようと都心部の定年帰農希望者を対象にした研修会に参加していた。

3年の研修を終えた頃自分自身にも農業がやれるという自信が出来、妻に定年帰農の事を相談したところ二つ返事で了解してもらえた。
帰農するなら早いほうが良いと会社の早期退職制度を利用して退職、研修会で斡旋してくれた借家付きの農地を借り受け3年が経った。

既存のコミュニティーにも積極的に参加し、また近隣の人も快くアドバイスをしてくれた。小規模複合農園の形も整い自給自足のめどもついた今、残しておいた退職金の一部を頭金にして町から住宅と農地を買い受ける計画を立てている。町の低利融資制度も使えそうで65歳までには返済も可能だ。妻もやっと慣れたらしく、今は、都心から農業体験をしたい人を受け入れる民宿をしたいと計画を練っている。


地域に足りないもの 市町村で運営する中・長期滞在型体験農園(空民家・廃校校舎の利用等)
民間が経営する体験農園に対するサポートシステム
問   題   点 農地、住宅取得のための支援制度の整備不足




Cさん夫婦の場合:夫42才 妻38歳

都心部の大手スーパーに勤めていたCさんは32歳の時、当時3歳だった長女がアトピーを患い転地療養を考えるようになっていた。インターネットでどこか空気の良いところが無いかと探していたところ貸し農地の広告が目に留まり早速現地を訪ね、町にも相談に行ったところ、ニューファーマー制度の事や住宅の低利融資制度の事が聞けた。

ニューファーマー制度では、5年間の研修を受けながら月々の賃金も15万円程度はもらえるらしい。妻とも相談し、5年間は辛抱しようと頑張ったおかげで、現在は一町歩の農地を借り受け、地域ブランドの大豆栽培とハウスイチゴで生計が立てられるようになった。農協や町の農業機械貸出制度が利用できたのも早く自立できるようになった一因だ。


自宅も、昨年、町の低利融資制度を利用して新築した。県産材を利用した住宅で県の助成金が受けられたのもありがたかった。300坪の宅地に33坪の住宅で1800万円程度の借金で済んだ。65歳くらいまでで楽に返済できそうだ。もう少しゆとりが出来たら農地を買い受け、45歳頃にはさらに農地を広げて生産法人を立ち上げ若い後継者を育てたいと夢も膨らんでいる。

長女もアトピーが消え元気に小学校に通っている。下にできた長男は未だ4歳で将来は分からないが、野山を駆け回っている姿はたくましい。妻は教育のことを心配していたが、定年退職して転居してきた人たちが学童保育をボランティアで運営し、さまざまなカリキュラムを組み立ててくれているので安心だ。

妻は子育ての心配も無く、夫と農業をする傍ら、野菜の加工食品の研究を始めたらしい。昨晩の黒大豆のポタージュはなかなかのものだった。農を知れば知るほど妻の夢も膨らんでいくようだ。

問   題   点 県産材を使うと助成金を貰ってもかえって高くつく場合がある。ボランティアといっても、無償(チャリティー)では長続きしない、地域通貨のようなシステムの導入が必要教育システムの確立
加工品の開発のための仕組みづくり





Dさんの場合:夫31歳 妻34歳

フリーターDさんは学生の頃から農とか環境に興味を持ちいつか農業で自給自足をしながら環境保全の仕事に取り組みたいと考えていた。

妻はコンピューターグラフィックの仕事で忙しくしていたが、ネット環境が整備されてさえいればどこでも出来る仕事なので、どこか空気が綺麗で疲れた頭を休められる環境の中で暮らしたいと考えていた。

たまたま、ネットで、新規就農者の募集を目にして応募した。12軒ほどで3町歩の農地を集落営農で維持していくという耕作放棄農地対策の一環だ。

住宅は借家でさまざまな広さだがとりあえず一番狭いタイプでよい。コーポラティブビレッジゲストハウスがあるから、客がある時はそちらに泊まってもらえば良い。月に一度のパーティも楽しい集まりだ。

農地も、3反を受け持つ人もいれば、1反だけの人もいる。Dさんの場合はとりあえず2反受け持つことにした。もっとできるようであればさらに周囲に残っている耕作放棄農地を借りることも出来る。


ただ、Dさんは農にも興味はあるのだが、それよりも、スグ裏の里山を整備する原野となってしまった段々畑を山に、森に返すことが今の興味の対象だ。土曜日と日曜日には都心部から集まった環境ボランティア団体と一緒に植林に忙しい。今は2反の農地を受け持つのがちょうど良い。

一緒に住んでいる集落の皆さんも、何らかの形で農以外の仕事に携わっている人が多いようだ。

妻は相変わらず忙しく週に2日は都心部に打ち合わせに出かけている。こちらに住む様になってアイデアも新鮮らしく、かえって仕事が増えたと嘆いているが、土日の畑仕事や植林の手伝いを結構楽しんでいる様子だ。まさに半農半X的生活を実践しているのは妻の方かもしれない。

来年の2月には、お隣に畑の面倒を見てもらって1ヶ月ほど海外逃避を考えている。逃避といっても海外ボランティアになりそうなのだが。帰ってくればお隣と交代してあげないと。

問   題   点
必 要 な 物
ラストワンマイル
集落営農を単位としたサポートシステム・アドバイザー
集落営農を単位としたコミュニティーのルールづくり
森林アドバイザー
持ち家希望の人に対しての取得のための仕組みづくり
ずっと借家でいたい人のための仕組みづくり
老後になっての都市住民との交代のための仕組みづくり





<用語の解説>

コーポラティブビレッジ

コーポラティブとは「共同の」とか「組合方式の」という意味で、コーポラティブビレッジも「組合方式による集落づくり」と訳せる。もともとは「コーポラティブハウス」という、地価の高い都心部で、マンションメーカーによって供給される集合住居より廉価で、質の高い住居を得るために編み出された住宅取得手法が始まり。

「コーポラティブハウス」は都心部で中高層の集合住居を建てるときに有効な手法であるのに対して、「コーポラティブビレッジ」は中高層住宅のなじまない田園部で、低層住居の集落を形成するときに有効とされる。

共通しているのは、土地取得の段階から組合を設立してプロジェクトを進めるため、全体計画から維持管理のルール作りまで入居予定者が参加することが出来、完成の時には入居者の顔もわかっているため、コミュニティーの形成がスムーズである。

中山間地域においてこの「コーポラティブビレッジ」の手法を取り入れた宅地と農地の供給または取得の手法が確立できれば、新規就農者が住み続ける上でも、またまとまった耕作放棄農地を保全していくうえでも供給側、需要側双方にとって有効となる。

ラストワンマイル

最寄りの電話局(収容局)やISPからユーザー宅までの接続回線のこと。Webサーバ側から見て「最後の1マイル」という意味だが、ユーザー側から見て「ファーストワンマイル」と表現されることもある。

岡山県は平成10年度より「岡山情報ハイウェイ構想」に取り組み、県内全域を8の字型に結んだ高速大容量の光ファイバー網(総延長450km)を完成させている。

今後はこの「情報ハイウェイ」を県民の一人一人が早く活用できる様にインフラが整備されること、すなわち、この「ラストワンマイル」がいかにすみやかに整備されるかが課題となっている。
新見市では、県内の他の市・町に先駆けて平成12年度に「新見市地域情報化計画」を策定して「ラストワンマイル」の整備に取り組んでいる。

新見市地域情報化計画

http://www.city.niimi.okayama.jp/usr/joho2/keikaku/index.htm

中山間地域で「ラストワンマイル」が整備され、高速・大容量の情報の相互送受信が可能となることによって、都市部との情報環境の格差がなくなるとともに、テレビ電話等の普及による在宅医療サービスの充実、子供の教育のためのコンテンツ等の充実が図られ、医療・福祉・教育といった面での都市部との格差も解消されることとなる。

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