おすそ分けのある生活・コーポラティブ住宅

家々はウッドデッキで連結している


隣近所でのおすそ分けの風習。現代、特に都市部では途絶えて久しい感じがします。それが岡山市街の中心部で復活。その仕組みの謎解きのため、中納言町へ。
リポート:岡本直樹

岡山市中区中納言町にある有限会社バルプラン(balplan)に、代表の石井信(いしいしん)氏を訪ねました。石井さんは私たちCDMJの理事、一級建築士であり、今回取材の対象となったコーポラティブ住宅の仕掛け人でもあります。

きれいに整頓されたオフィスで、石井さん、社員の今中さんが暖かく迎えてくれました。

木の質感を大切にした施工例


まずはコーポラティブハウス(以下CHと表記)の定義から。「日本では東京や大阪といった大都市を中心に数十年前から普及していて、人気のあるエリア(必然的に高額な土地代)の共同取得を核とし、その上に各自のプランに沿った住宅を建てる。言い換えれば一人では達成できないマイホームの夢を共同で実現する方式のことです。」と石井代表がゆっくり説明をし始めてくれました。数人で組合を作り、共同で土地を取得。コーディネーターや建築家など専門家の協力を得ながら、住まいづくりを進め、築後の管理・運営まで自分達でするのだそうです。「なんだか大変そうですね。」と感想をもらすと、「でも、そういうプロセスを踏んで初めて自分達の理想とする住環境を比較的安価に手にすることができるんです。」と石井さん。その代表の発言に続けて、社員の今中さんは、「将来の住民同士が家作りを話し合い、理解を深める場があればこそお互い納得の近所付き合いができるんです。」と説明。

設計の自由度は高い


3年目に入った6家族の関係は、近すぎず遠すぎずの普通よりちょっと仲の良いご近所さんで、冒頭の“おすそ分け”のある生活がごく自然に行われているとか。

言い遅れましたが、石井さんも今中さんもこの中納言CHの住人でもあります。石井さんにとって第1号のCHで、もちろん愛着もあり、自分の手掛けた作品に自信ありと見えました。第2弾として、国富町にも築後1年半の“国富2丁目コーポラティブ住宅”があり、そこでは5家族17人の生活がすでにスタートしています。

「大都会でのCHのあり方は分かりました。しかし、あまり土地の高くない岡山でなぜ?」の質問には、「高くないといっても中納言・国富のエリアはそれなりの値段がします。若者がおいそれと手を出せる金額ではありません。ポイントはそういう人気エリアにも関わらず、戸建の物件が2,000万円でも手に入る点です。そういう芸当ができたのも、両CHとも、もともとの土地の形状が住宅地としてはとても使いづらいため、価格を抑えて手に入れられた点にあるんです。」と石井さん。

そのあたりのポイントを踏まえつつ、現場を見てみましょう。
中納言CH、300坪弱のこの物件は狭い間口と長大な敷地に特色があります。京の町屋のような奥深さです。素人でもこの土地のナリを見れば、土地を切り刻んでの建て売り住宅作りが、どれほどの劣悪な住環境を生み出すか容易に想像できます。

樹木を大切にした空間


敷地内に踏み込んでまず体感することは、“とても空が広い”点です。7戸(住宅6戸・オフィス1戸・・・バルプランが使用)の直線的でシンプルな配置。圧迫感のない空の景色と相まって、とても広く感じる空間を作り出すことに成功しています。要するに、空間の使い方のメリハリが効いているのでしょう。オフィスのすぐ裏隣りが今中さんの住まい。一番奥が石井さん宅。両家に挟まれて4戸の住宅が並びます。それらの住宅を象徴的につないでいるのがウッドデッキ仕様の陸橋型スロープ。子供たちが駆け回る姿が眼に浮かびます。

次に国富CHに石井さんが案内してくれました。ここも敷地面積はたっぷり260坪あるのですが、問題点が一つ、この旧屋敷地に入るためには車1台分の幅しかないちょっとした坂道を登らないといけません。この道路付きの悪さが土地の評価を下げる原因だったのです。しかし現在、坂を上ると別世界が開けます。直線的な中納言CHと違い、ここは中央の広場を中心にぐるりと5戸の木造住宅が取り囲む構造になっています。ここの第一印象は、自然と近い、ということです。中納言CH同様、日当たりも風通しも良さそうな家々のレイアウトと、周りの樹木とが相まって、住民たちの自然志向の強さを感じさせます。「中納言もそうですが、基本的には元の地にあった樹木はそのまま生かすようにしました。」と石井さん。

ここには5家族(大人10人・子供7人)、計17人が生活しています。もうすぐもう一人増える予定だそうです。家はそれぞれ建て主の意向が強く反映されている感じがします。こだわりを感じさせるモダン農家とでも言えるような玄関周りを持つ家、和のテイストを残しつつ、しゃれた中庭を持つ家、様々です。

完成直後の国富CH中央広場


住人の意識の高さ。設計者のセンス。それらを取り持つコーディネーターの熱意。これら3つの要素がバランスよく発揮されてこそ現出する光景を目の当たりにすることができました。インテリアのほうはどうなっているのか興味津々でしたが、残念ながらモデルルームではないので、諦めました。もう一つ残念だったのは、取材日が平日の昼過ぎということもあり、両CHとも人の気配を感じられなかった点です。機会があれば是非、これらのCHがその住人達と一緒に呼吸している様子を感じたいと思いました。最後に、考え抜かれたCHはそこに住む住民はもとより、その周囲の住民にとってもより良い住環境を提供するものだと実感しました。

取材後記) 今回は忙しい中、バルプランのお二人には大変お世話になりました。新しいコミュニティーのあり方として、コーポラティブという考え方は大いにアリだと感じました。次回はこのコーポラティブの枠をもう少し広げて、コーポラティブビレッジについて考えてみたいと思います。


今回、特集記事となったコーポラティブ住宅の立役者、石井信氏は、1970年生まれの41歳です。誰もが認めるところは、とても40過ぎには思えない少年のようなキラキラした目の持ち主であること。職業は建築士であると共に不動産会社経営。有限会社バルプラン代表。

石井伸氏


石井さんの略歴:
1970年生まれ。
岡山大学教育学部附属中学校卒業、
岡山県立岡山朝日高校卒業、
神戸大学大学院環境計画学修了。
ゼネコン, 設計事務所, 不動産会社にて、
それぞれ建築現場管理, 集合住宅企画設計, 不動産管理及び仲介の業務を行う。
2002年に独立し、コーポラティブハウスや宅地開発の企画、住宅の企画設計等に取り組む。
2003年balplan設立。

一級建築士 宅地建物取引主任者 2級FP技能士 住宅ローンアドバイザー
倉敷芸術科学大学非常勤講師(2004年度~2008年度)

手前が事務所、コーポラティブハウス全景


ちなみに、石井さんは左記のコーポラティブハウスでの実績を高く評価され、平成21年・22年と連続で“岡山市の景観まちづくり賞”に選ばれています。おめでとうございます。
会社名のbalplanの由来を聞いたところ、「balとはbalanceから取った言葉で、バルプランのモットーは、家作り、まちづくりにバランスの取れた無理のない長く愛される提案を行ってゆきたい。」と語ってくれました。

CDMとの関わり合いについて
「現況、CDMの活動主眼が中山間部に置かれているが、既存市街地も結構大変なことになっており、是非、この方面でのまちづくり活動にも取り組んで欲しいし、一緒に活動したい。」と最後に締めくくってもらいました。(岡本取材 2011,11,11)

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